東京駅之介


アマゾンでふと目にしたタイトルが気になって読んでみたら、今年いちばんの掘り出し物の小説だった。小説現代長篇新人賞も受賞しているから掘り出し物というのは失礼かもしれないが、ベストセラーになったという噂も聞かないから手にできたのは幸運だ。

終戦後まもなく東京駅に捨てられていた赤ん坊が東京駅之介と名づけられ、一度は貰われていったものの、やがて再び東京駅に戻り浮浪児となって生き抜いていく物語。戦後版コインロッカーベイビーズといえるような設定で、あちらの新宿中央公園やこちらの東京駅など、場所が描かれるときの臭いや騒がしさまで感じられるような生々しい描写が共通した最大の魅力である。

ときにはその場所の恩恵を受けて、ときには場所の非情な力に突き動かされて、主人公が生き抜いていく。やがてその場所に居られなくなったとき、あるいはその場所に収まりきれない存在になったとき、主人公は別の場所へ旅立って行く。中篇である「東京駅之介」に長篇「コインロッカーベイビーズ」を上回るところがあるとすれば、場所の力を活かしきったラストシーンの鮮やかさにある。