阿佐ヶ谷住宅へ


車を修理に出した帰り道、阿佐ヶ谷住宅へ寄ってみた。既に建て替えが決まっており、入居者の方々もほとんどが引き払って人影も少ない。勾配屋根を載せた2階建ての長屋が、ゆったりとした緑地を隔てて並ぶ。家の前は柵で囲われて庭のように使われているところもあるが、けっして閉鎖的ではなく、かえって住まいとしての奥行きというか、一歩引いたような落ち着いた佇まいを生み出している。

妻面に描かれたナンバーは50以上に及ぶから、全体としてはかなり広い敷地である。これがどのように建て替えられるのか知らないが、新しい計画には斜め屋根や、なだらかに起伏のつけられた地面や、変化のある棟配置が醸し出す柔らかな雰囲気は期待できないかもしれない。例えば、同潤会アパートメントのような緊張感と高揚感のある都会らしさとも違う郊外住宅の理想型として、年月の経過でしか手に入れることのできない住まいの雰囲気が失われるのは残念でならない。

設計の一部は前川國男さんが手がけている。隣家との戸境壁を共有しているタウンハウスという形式で、ヨーロッパには多いが、日本では私有財産の意識もありあまり根付いていない。ここでも部分的な建て替えがされにくいという意味で、やはりタウンハウスという形式が仇になった面はあるのかもしれない。

とはいえ関東平野は広い。東京は本来はこれくらいの余裕のある住宅が標準として広がっていてもおかしくはなかったのだ。コンパクトシティのヴィジョンも喧伝されるいま、いちばん遠い東京のイメージかもしれない。