「幕末太陽傳」を見る

kasta22007-09-04


1953年封切りという川島雄三監督の「幕末太陽傳」を見た。主演はフランキー堺。幕末の品川の女郎宿を舞台にした喜劇で、主役は一文無しなのにどんちゃん騒ぎをしてそのまま宿に居着くことになった町人「居残り左平次」。宿には、高杉晋作(=石原裕次郎!)ら尊王攘夷派の志士たちをはじめ、若旦那やら貸本屋やら騒々しい面々が出入りしていて、彼らがさまざまに巻き起こすトラブルを左平次が鮮やかにおさめていく。

映画の前半は、ややスローペースでじっくりとトラブルの種が蒔かれる。それそれに関係のない揉め事が順番に丁寧に描かれる。そのひとつひとつが落語を下敷きにしていたりして、それだけでも面白い一幕になっている。一転、映画が後半に差し掛かるといきなり話のスピードが上がって、蒔かれた種が次々と回収されていく。一見、相互に関係のなかった揉め事が左平次の奇策によって結びつけられ、物語は一気に立体的に展開する。そのギヤチェンジの加減が実に見事なのだ。

物語はラストシーンで、観客すらあっさりと置き去りにしてしまう。幕末から現代へ、あるいは日本からアメリカへ、時間的にも空間的にも目一杯広い世界へ観客を放り出して主人公は消えてしまう。収束させない終わり方もまた見事なのである。