夏の旅


お盆休みの後半、2泊3日で東北へ行ってきた。古い寺社建築から近代・現代建築まで、かねてから見たいと思っていた場所を巡ろうと思う。
仕事を終えて午後遅く東京を出発して、その夜は猪苗代湖畔でキャンプ。
翌朝、喜多方市熊野神社長床を訪れた。長床は修験道の道場を兼ねた拝殿で、44本の円柱がずらりと建つ。遠くから見ると床下が抜けて向こうの光が見えるので、地面に根を生やしたような重たさは感じられない。床は腰高くらいの高さで、試みに視線を床高さに合わせてみると、まったく空間感覚がなくなってしまう。床と天井がそろって感じられることが大事なのだ。

 

喜多方から北上して、米沢へ。蔵王温泉の大露天風呂で一休みしてから山形市で元木の石鳥居を見る。朝日新聞山形ビル(設計:妹島和世)はのちに梅林の家へとつながる作品だが、ごろんとした置かれ方はよく分からなかった。


最上川ふるさと総合公園センターハウス(設計:内藤廣)は構造体がスレンダーで、弦張梁のワイヤーやサッシ部材が青空を背景に空中に飛び交っていて、写真に撮ると非常にきれい。

寒河江から月山の麓をまわって、日本海を望む由良浜でこの日もキャンプ。

 

酒田市土門拳記念館(設計:谷口吉生)は大学の授業で図面トレースをして以来、一度は来てみたいと思っていた。ここは歩き回ると楽しい。以前訪れた資生堂アートハウスのように、次々と見えてくる風景が変わって飽きることがない。たまたま、入館前にはかんかん照りの快晴だったのが、展示室を見終えて中庭を見たところ天気雨が降り出していて、庭の水面に点々と水滴が落ちていた。館を出るころ、また陽が差してきて石張りの床がすぐに乾いていく。写真ではグレー一色の固い印象だが、実際には豊かな表情があった。


記念館の向かいにある酒田市国体記念体育館(設計:谷口吉生)も気持ちのよい建築である。大きく張り出した軒下から外光を入れる仕組みで、エッジが効いた外観も間接光が入る内部空間も清々しい。


近くの酒田市美術館(設計:池原義郎)は時間がなくてなかには入らなかったけれど、池原さんのディテールへの気合いが感じられる力作。コンクリート壁の端部の処理の仕方、出目地のディテール、門扉やキャノピーや笠木の金属細工などなど、ここまでやるかというほどのオンパレード。一方で、市街を見下ろす高台の立地を活かした伸びやかな配置計画も目をひく。


最終日は、酒田から仙台方面へ東北を横断する。途中、国道47号線のわきに風車群が見える。後から調べてみると、清川ダシという有名な強風を逆手にとったまちづくりらしい。風車は遠くから見ても近くから見てもきれいだ。


鳴子温泉の早稲田桟敷湯(設計:石山修武)で一休み。お湯はよかったが、建築としては石山さんならもっと暴れてくれてもよかった気がする。


仙台へ入る一歩手前、大崎市というところに近代建築の傑作がある。武基雄さんが設計した古川市民会館で、四隅から吊ったシェル屋根で知られる。竣工当初は屋根と壁の間がガラスで縁を切られていたのが、いまはスチールパネルで塞がれてしまっていて、吊り屋根の浮遊感がやや失われてしまったのが残念だけれど、四隅のバットレスと吊り屋根の組み合わせは変わらずダイナミックな眺め。親切に案内していただいた職員の方は、ハンカチを使って子供たちに建物の構造の説明をするのだという。


最後は、せんだいメディアテーク。到着したのが日没後なので、いきなり夜景である。ライトアップされた柱が異様に艶かしく、これはたしかに今までに見たことがない体験だ。一方で、2日前に見た熊野神社の長床を思い出した。ここでも柱に強烈な存在感があり、さらに床と天井のセットが大事。続いて、歩き回っているうちに、昨日見た土門拳記念館も思い出した。次々と現れる景色の移り変わりと、材料の表面の素材感を眼が追う。見てきた風景を次々と思い出しながら、東京へ向かって長い長い夜の東北道を走り続けた。