吉村順三記念ギャラリーへ

kasta22007-05-19



目白の吉村順三記念ギャラリーへ行ってきた。ここは吉村さんの昔の事務所で、いまはテーマを設定して小さな展覧会を連続して開いている。毎回、そのテーマに関わった吉村さんのお弟子さんたちが会場に常駐して解説してくれるという贅沢な展覧会なので、必ず足を運ぶようにしている。

今回のテーマは「家具とあかり」。吉村さんが制作した椅子がずらりと並んでいて、どれも座ることができる。

例えば、キャンバス地の木製折り畳み椅子。肘掛けが皮ベルト製で、ここを持って上に持ち上げると椅子がかしゃんと折り畳まれる。折り畳まれた椅子はその状態のままで自立する。「折り畳める」ということと「折り畳まれた状態で自立する」ということが非常に重視されているのが印象的。

合板による折り畳み椅子もある。1人掛けと2人掛けがあり、いずれも座面が背板の方向に180°回って折り畳まれるというダイナミックなもの。

また、蝶番を使用していない木製折り畳み椅子もある。ヒンジ部分も木製で、軸のみが金属でできている。この椅子は制作がとても難しいという。素材は赤樫と米松、座面は皮とキャンバスから選ぶことができる。いまでも受注生産で販売しており、座面が皮のタイプで1脚およそ10万円。欲しいけど、少し高い...。

次に、吉村さんの自邸でも使われているソファとテーブルのセット。幅2100×奥行830のどっしりとしたソファと細長く軽やかなテーブルの組み合わせ。これらを部屋の中央ではなく、端に寄せて配置するのだという。部屋の中央に余裕を持たせるのが大事ということだそうだ。

また、ホテル小涌園のレストランで使われていたダイニングチェア。食事のときの姿勢を考えて座面はほぼフラットに(上半身がふつうの椅子より前傾みになり食事の動作がしやすい)、上半身の自由さを考えて背板は腰までにしてあるなど、さまざまな工夫で非常にリラックスできる椅子だった。建物改装のときにほとんど捨ててしまったそうで、もったいないことをしたものだ。

これと対照的なのが、新宮殿に使われる予定だった椅子で、座った姿勢がきりっと引き締まるような設計になっている。宮内庁の規定では椅子の座面からテーブルの高さが330mmと決まっているそうで、これは普通のダイニングチェアとテーブルに比べてかなり高く、自然と肩から上腕が上がり背筋が伸びる。ちなみに、椅子の設計のために、飲食店に行くたびに椅子とテーブルの高さ関係を測っていたそうで、それによると、蕎麦店は低く(食べるときに蕎麦を箸で持ち上げるので)、寿司店は高く、なぜか天婦羅店は低いのだとか。

今回は、会場に奥村まことさんと小田原健さんがいらっしゃって、興味深い話をたくさん聞かせていただきました。椅子の話をしていると話がどんどん脱線して気がつくと天井の話をしていたり、吉村さんが話したことを教えていただいたり、たっぷり2時間は過ごして会場を後にした。