山梨、3つの水の景色


快晴なので出かけることにした。いま話題のほったらかし温泉に着いたのは朝の5時。正確には今日の甲府の日の出は4:56だが、受付のおじさんは5:20だという。ここは、日の出の1時間前から営業しているので露天風呂に入りながら朝日を見ることができるのだが、お風呂から見る日の出時間を教えてくれているのだろう。露天風呂は東に勝沼扇状地、南に甲府盆地をはさんで富士山を望む位置にあり、今日のような快晴の日には下に街を、横に山を、上に空を見ることになり、すばらしい開放感を味わえる。いまや温泉は地形を読みこんで任意の位置に配置することから始まる。

 

次に三分一湧水まで足を伸ばした。ここは八ヶ岳からの雪解け水が湧き出しているところで、8500t/日にもなる豊富な水を3つの村に均等に分割するための仕掛けが施されている。昔から水元と呼ばれる一族がこの場所を管理し(現在は周囲の土地は地元の自治体に寄付されたとのこと)、いまでも6月の初めに分水の儀式が執り行われるらしい。分けられた水は3つの水路を勢いよく流れていって、それそれの集落を潤し、最終的には甲府盆地を貫く釜無川に注ぎ込むはずだ。

 

釜無川笛吹川と合流し富士川と名前を変えて、富士山の西側を流れる。その富士川沿いの急峻な谷間は身延山につながる身延道とも呼ばれ、遠く駿河を経て太平洋まで通じる古来の道だ。1時間ばかり車を走らせて、波高島というところで左折して山のなかへ入って行くと、やがて下部温泉にたどり着く。ここは富士川の支流に沿った小さな温泉街で、信玄の隠し湯として知られる。その名も源泉館という外観も古そうな宿が最も源泉に近そうなので、そこの湯に入ることにした。浴槽自体が岩盤をくり抜かれており、湯は岩の間からしみ出しているという。下部の湯は冷泉だとは聞いていたが、ほとんど水に近いような冷たさで、加温された湯と交互に3サイクル程度入るのが正しい入浴法とのこと。最初のほったらかし温泉とは違い、山奥への難儀な旅を経て、自然の湯が地形なりに湧き出る「その場」でありがたく入浴するという古来の温泉である。入浴している人たちも治療効果を期待して冷たい湯に黙々とつかっている雰囲気で、賑やかなほったらかし温泉とは好対照だった。