茄子

kasta22006-05-02

いまさらながら黒田硫黄の「茄子」を読みました。名前は聞いていたのだけど、なんとなく読みそびれていたもの。僕は自転車レースファンなので、ますはスペイン1周自転車レースのブエルタ・ア・エスパーニャを舞台にした「アンダルシアの夏」。スポンサーにクビを宣告されそうになった主人公ペペのセリフがいい。「監督、あんたに教えてやりたい」「プロってのは仕事以上のことをやっちまう奴だって」「そうじゃなきゃ、そうでなくちゃ、生まれたところから出て行けないじゃないか」「僕は遠くへ行きたいんだ」。ペペは超一流レーサーというわけではありません。地の利のある地元で、ライバルのアクシデントにも恵まれて、なんとか1勝を挙げることができたという実力なのです。しかし、いくつかもの話が交互に描かれていく「茄子」の終盤で、ペペは自転車レース後進国である、その意味では「遠く」の日本まで来てレースをしている。けっして卑屈にではなく、新鮮な気持ちを持って、勝つために。連作というスタイルを活かして、読む者にも新鮮な気持ちを与えてくれる構成だと思います。

その気分は、メインストーリーとも言うべき、田舎で茄子を栽培して暮らすインテリおじさんの話にも通じます。都会で忙しく働き、よく眠れるという理由で彼のもとを訪ねて来る、長いつきあいらしい女性との交流の末、「茄子」の最後では彼もまた遠くへ旅だって行きます。女性もまた「新しい」気分を持って踏み出して行くのです。

読後感の爽やかな、とてもいい作品でした。